※この記事はTHE LIVELY 東京麻布十番のスタッフが書いています

2025年11月14日から、THE LIVELY 東京麻布十番の2階ラウンジにて、蝋纈染(ろうけつぞめ)の作家である岡田 明彦(おかだあきひこ)氏の作品を展示しています。

展示の題目は「彩KANADERU(イロドリカナデル)」。ラウンジに足を踏み入れると、天井の手前側から奥に向かって何枚もの細長いシルクの生地が吊り掛けられているのが目に入ります。その一枚一枚が異なる明度の青を基調とした染料で淡く、それでいて大胆に染め上げられており、緑がかった青から紫っぽい青へと変化していく布ごとのグラデーションも圧巻というよりほかありません。
布は手前側では寄せ束ねられていますが、奥側では一枚ずつ一定の間隔をおいて天井の骨組みに掛けられており、細長い生地のちょうど中間が重力によって大きく下へ弓なりにたわんでいるため、正面から見ると(その色相も相まって)降霜で白く染まりゆく冬の山のよう。ドレープが裾野にむかって広がるにつれて文様があらわになっていき、作品のモチーフである「水面(みなも)と葉蔭(はかげ)」が浮かび上がります。揺れる水面は「面」で層状に、そして波紋やそこに浮かぶ葉は細かい「線」でそれぞれ染め上げられており、薄いシルクの生地の隙間を貫く照明の透過光は、まるで水面の照り返しの煌めきのように見えます。

同様に複数枚の染め物を束にしてカーテン状に吊るしたものや、単体の布を等間隔で天井に吊られている木製のオブジェの間を縫うように配したものも展示されており、ラウンジの局所々々で岡田ワールドが展開されています。

蝋纈染は、奈良時代に唐から日本に伝わったとされており、蝋が染料をはじく性質を利用した染色技法です。温めて溶かした蝋を布(生地)に筆などで塗布し、(固まったのち)その残った部分に色が入るという仕様になっています。この手法自体の歴史は古いですが、衣服などの実用品以外、いうなれば工芸(作)品にこれが転用されるようになったのは明治末期から大正時代頃だったといわれています。
岡田氏によれば、蝋纈染の工芸品の多くは屏風やタペストリーなどの平面構成がほとんどだそうです。今回のような展示方式は、「布の柔らかさをいかした制作、現代の生活空間の中でいかされる新しい表現」を追求してきた、まさに岡田氏ならでは。
「(同じ業界には)いないんです、私みたいな動き方してる人」
同氏はこれまでも、作品が風になびき、不特定多数の人々が行き交うようなオープンな空間での展示にこだわっており、その唯一性に自信をのぞかせます。蝋纈染は、布の蝋が塗られていない箇所に(岡田氏の場合は刷毛で)染料を浸すため、裏表に色の違いが出づらいという性質があり、これがいみじくも立体造形的な見せ方を可能にしているといえるでしょう。

今回展示されている作品は、雑多な絵柄がところ狭しと描き入れられているわけではありませんが、約1年という膨大な制作時間が費やされています。蝋纈染は、一度蝋がついてしまった部分は染められないため、水面の「面」塗りが終わったら、波紋や落葉の「線」塗りをする前に蝋を洗い流し、色を定着させ、乾かすという「待ち」の工程が発生するというのも、その要因のひとつといえるでしょう。また、岡田氏の話によれば波紋や落ち葉の文様は、小筆のようなもので布に直接描くのではなく、蝋で線の両端をふちどりしてから、その隙間に色を入れ込んでいるといいます。
「(蝋を置かずに直接)描くと滲むんです。描いたんじゃ、あんなにすっきり色や輪郭、ハードエッジな線は出ないですよね」
技術的なディテールにおいて、今回岡田氏が手掛けた作品を特徴づけるのが、やはりこの明瞭なアウトライン。蝋纈染の作家のなかには、樹脂由来のヒビが入りやすい蝋を用い、その割れ目に染料がそそぐある種のアレアトリー(※芸術における不確実性や偶然性)に委ねる人もいるようですが、岡田氏が使うのは割れづらい石油系のワックス。固まった蝋の淵にインクが溜まった状態で乾くため、完成後に、遠目からでも白い生地と淡い色との、あるいは隣り合った色どうしの境目を容易に認識できるのだそうです。

使用する蝋の種類からもうかがい知れる通り、岡田氏は、イレギュラーを美徳とするタイプの作家ではないようです。そもそも蝋纈染は、一度色が入ってしまえばそれを抜くことはできない(さらにいえば蝋がついた部分も洗い流さない限りは染まらない)という不可逆性の上に成り立っており、下絵(染色の前の下描き)の段階で作品の凡(おおよ)そのイメージを固めなければなりません。色を重ねる際にも、既に布に沈着している色とこれから入れる色との中間色の具合を予め計算する必要があるといいます。
「大きな流れは、染める前からできている。染めるということは、ある意味作業なんです。(略)私の性格からして、今思えば、“計画的にものを進める”染色に進んで良かった」
もともとは立体的な工作に興味関心を寄せていたという岡田氏が蝋纈染の制作を始めてから今年で47年―――偶然から出立したキャリアだったそうですが、同氏はそう振り返ります。たしかにラウンジに飾られている作品を眺めていると、本来平面的なものに命が吹き込まれたような躍動感と、緻密な計画をもとに制作されているからこその、整然とした雰囲気とが併存しているように感じられます。

作品の展示期間は2026年1月31日(土)までを予定しています。離れたところから立体的な展示物として眺めたり、間近で精緻な文様や調和のとれた配色を観察したりと、鑑賞の仕方は様々です。ぜひ会場に足をお運びいただき、岡田氏による蝋纈染の作品の魅力をご体感ください。
開催概要
- 展 示:蝋纈染作家・岡田 明彦『水面と葉陰』
- 場 所:THE LIVELY 東京麻布十番 ラウンジ 2F
- 期 間:2025年11月14日(金)~2026年1月31日(土)
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蝋纈染作家 岡田 明彦プロフィール

47年前に京都の蝋纈染作家に弟子入り
呉服屋に勤めながら腕を磨き、日本新工芸展で幾度も入選を果たす。
2005年以降、定期的に個展を開催。
コロナ禍以前は、ワークショップのツアーで蝋纈染の魅力を伝えてまわっていた。
THE LIVELY 東京麻布十番

ザ・ライブリー東京麻布十番は、エレガント且つ遊び心あるデザインが特徴のライフスタイルホテル。テラス付きの客室や、東京タワーの見えるバーがあり都会で味わう贅沢な時間を提供します。
<施設概要>
- 施設名:THE LIVELY 東京麻布十番(ザ・ライブリー東京麻布十番)
- 所在地:〒106-0045 東京都港区麻布十番 1-5-23
- 本件のお問い合わせ先:050-3733-9296
- アクセス:
- 東京メトロ 南北線・都営地下鉄大江戶線「麻布十番」駅より徒歩 3 分
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